相続放棄と不動産登記
相続放棄や遺産分割といった、家族の間での出来事が原因で、全くの他人とのトラブルに発展してしまうことがあります。
例えば、以下のような事例を考えていきましょう。
事例
甲土地を所有していたAが亡くなりました。Aの子供BとCの2人が相続人だったものの、Bは、「俺は、商売でけっこう稼げているから、甲土地はCの自由にしていいよ。俺は相続放棄をする。」と相続放棄をしました。しかし、間も無くBは商売で失敗してしまい、金貸しDへの借金を返せなくなりました。そこで、金貸しDは、Bが相続放棄したことを知らずに、甲土地の半分をBが相続した持分として仮差押えの登記をしてしまいました。
登記をしていなくても所有権を主張できるか
仮差押えの登記と聞くと何だかややこしそうですが、ここでは金貸しDが甲土地の半分をBの借金のカタとして取ったと、簡単に考えて頂ければと思います。
しかし、Bは相続放棄しているのだから、そもそもBに甲土地の持分はありません。Cからすれば、Bが相続放棄したことで全部自分のものになったはずの甲土地のうち半分が、勝手にBの借金のカタにされてしまったようなものです。
それでは、Cは、「Bは相続放棄をしたのだから、甲土地は自分だけの財産だ。Bの借金のために仮差押えの登記なんてできないはずだ」と金貸しDに主張できるのでしょうか?
実は民法のルールでは不動産の権利は、登記がなければ「正当な利益を有する第三者」に主張できない、となっています。不動産という大きな価値を持つ財産については、「これは自分の不動産だぞ」と登記に書き込んで誰もが見られる状態にしなければ、権利の主張をできなくなっているのです。
そして金貸しDのような、借金を返してもらうため手間をいとわず差押えまでした債権者は「正当の利益を有する第三者」になります(最判昭和39.3.6)。
そのため、その通りに考えると「甲土地は、父AからCだけが相続した」という登記をしていないCは、甲土地の権利のうち、金貸しDが差押えた甲土地の半分の権利を、Dに主張できないとなってしまいます。
しかし、最高裁判所は、同様の事例でCの主張を認め、金貸しDの仮差押登記は無効である、と判断しました(最2小判昭和42.1.20)。一見すると最高裁判所の判断は、民法のルールと矛盾しているようにも思えます。しかし、相続放棄は家庭裁判所への申述という形でなされる(938条)ので、金貸しDはBが相続放棄しているか家庭裁判所に問い合わせて確かめることができ、その確認を怠ったDが不利益を受けることもやむを得ない部分があること、また、相続放棄について規定した民法939条には金貸しDのような第三者を保護する言葉がないことを考えると最高裁判所の判断のように解釈することもできます。最高裁判所は相続放棄の効力を絶対的なものとし、登記なく誰に対しても効力を生じるとしている、と考えているのです。
まとめると、今回の事例では、Cは金貸しDに対して、「B夫が相続放棄をしている以上、甲土地は自分のものだから、Bの借金のカタになんてできないはずだ」と言えることになります。
家庭裁判所で相続放棄をしていれば第三者に権利を主張できる
上述のとおり相続放棄を家庭裁判所で行っているのならそれにより権利を取得した相続人は登記をしていなくても差押権者などの第三者には権利を主張することができます。もっとも相続放棄で全て自分のものになったと思っていた建物や土地に、あるとき突然、差押えがされ、「一体どういうことなんだろう?まさか追い出されたりするんだろうか?」と不安を抱えながら弁護士さんに相談に行き何日もかけて解決してもらう…なんて思いをするくらいなら、相続放棄があった時に登記もした方が余程、手間もお金もかからなくて済んだでしょう。このような事態を避けるためにも、相続人の内で相続放棄をする人がいる場合において相続放棄の手続が終わった後は相続放棄により建物や土地を取得した相続人はなるべく早く相続登記を済ませておくことをおすすめ致します。
相続放棄でお困りのときは専門家に相談しましょう
相続放棄のことでお困りの場合は、まずは相続放棄に強い弁護士、司法書士等の専門家に相談しましょう。相続放棄のことを熟知していますので、必ず役に立つアドバイスがもらえます。
当事務所はJR.武蔵小杉駅徒歩2分の司法書士事務所です。相続放棄でお困りであれば無料相談を受け付けておりますので、お気軽にご連絡くださいませ。