形見分けをすると相続放棄はできなくなる?
相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき(保存行為、短期賃貸を除く)には、相続を単純承認したものとみなされ(民法921条1号)、相続放棄ができなくなります。
相続財産とは被相続人が亡くなった当時、残っていたプラスの財産とマイナスの財産のすべてのことをいいますので、不動産のような高価な財産はもちろんのこと、被相続人が身に付けていた身の回りの遺品等も全て含まれます。
そうだとすれば、形見分けも被相続人の相続財産を処分することになりますので、相続放棄できなくなるとも思えます。
しかし、相続放棄をするなら形見分けも全てできないというのはあまりにも硬直で現実的ではありません。
この点について、裁判所は、民法921条1号にいう「処分とは、一般的経済価額のある相続財産の法律上又は事実上の現状・性質を変ずる行為のことであり、経済的に重要性を欠く形見分けのような行為は「処分」に当たらないとしています。
形見分けの全てが処分にあたるというわけではなく、金額が経済的に重要ではないものは「処分」に当たらないと判断しているようです。
形見分けで争われたもので「相当多額にあった相続財産中から、形見分けの趣旨で背広上下、冬オーバー、スプリングコートと被相続人の位はいを持ち帰り、時計、椅子2脚の送付を受けたことは、民法921条1号の相続財産の処分に当たらない(山口地徳山支判昭40・5・13)」と単純承認にあたらないと判断されたものがあります。
反対に「スーツ・毛皮・コート・靴・絨毯などの遺品のすべてを自宅に持ち帰った行為は、形見分けを超えるとし、民法921条第3項の隠匿にあたる」として、単純承認とされました(東京地判平12・3・21)。
形見分けをしたものが経済的価値において重要でない場合は単純承認にあたらないと裁判所も判断していますが、何が経済的価値において重要かの判断は難しい判断になるので、相続放棄を検討されている場合には、一度専門家に相談されることをおすすめします。